日経ビジネスが2月12日号で、『“ニューリッチ”2億人 中国で売る 「大消費」に踊る日本企業』と題する特集を組んでいます。表紙に釣られて、もう何年も自分の金で買ったことのなかった私も買ってしまいました。
サンケイビジネスアイさんには申し訳ないのですが、ビジネスマンにとって日経新聞や日経ビジネスは、今でも最も影響力が大きい活字媒体だと思います。実はある出版関係の方に伺ったら、良くも悪くも雑誌で「中国特集」を組むとよく売れるのだそうです。
<表紙と広告>
貧富の格差を拡大しながら2ケタ成長を続ける中国。存在感を増す新しい富裕層による「大消費」は世界の垂涎の的だ。日本企業が想定顧客とする所得上位層でも約2億人いる。日本企業の共通した思いは「ここを目指さずして自らの成長もなし」。
特集の内容の前に、編集長・井上裕氏の編集後記(往復書簡)をご紹介したいと思います。
本誌は7年前、中国における工業生産力の爆発的高まりをとらえて「中国は世界の工場」という言葉を編み出しました。今の消費経済の急激な拡大を売り手側から眺めれば、さしずめ「中国は世界の売り場」となるでしょう。
それほど世界の企業から見て中国市場は魅力的です。毛沢東がソ連の経済発展モデルと決別して独自の農工業振興策に打って出たのが1958年。「大躍進」と呼ばれた製作です。それから半世紀。資本主義の経済システムを取り入れて急成長を目指すの中国では、従来動きの鈍かった中・高価格品も国民所得の向上で一斉に売れ出す「大消費」と呼ぶべき現象が起きています。ただし「大躍進」がその急進性から失敗したように、「大消費」も行き過ぎれば急激なインフレなどのリスクも多いことを肝に銘じるべきでしょう。
なるほど。「世界の工場」改め、「世界の売り場」ということですか。日経が「世界の工場」ともてはやした中国の実態が「世界の下請け」だったことが明白になった今、彼らが「世界の市場」と言いたい気持ちも解からないではありません。しかし「世界の工場」という日経に釣られて中国進出した日系企業の残酷物語はスルーです。
現在中国で「世界の工場」として生き残っているのは、“悪の現地化”に成功した台湾企業です。世界のパソコン、携帯電話を作っているのも、iPodを作っているのも彼らです。私の知る限り製造業で中国進出をして、成功を収めた日系企業は存在しません。
さて、では今回の特集「世界の売り場」に登場した日系企業とはいったいどこでしょうか。
・伊勢丹
・ユニクロ
・ヤクルト
・吉野家
・タカラトミー
・イエローハット
・コマツ
です。
非常に興味深いのですが、取り上げられている企業のほとんどが小売業(現金商売)、もしくはインフラ関連の企業「コマツ」などで、奇しくも以前の拙エントリ「NECも中国撤退、兵どもが夢のあと」で書いた私の見解と同じです。ここに日経の詭弁が隠されているのです。
確かに中国の沿岸部において富裕層の登場は紛れも無い事実です。しかし、日経ビジネスの特集では既に世界で周知の事実となっている違法コピー、模造品の問題、また中国当局の外資叩きについては触れていますが、中国市場の最大の問題である、債権回収のリスクについては全く触れられていません。
債権回収のリスクを説明する前に、中国の税制について簡単に説明すると、中国においては企業は企業所得税と増値税を収めなければなりません。これまでは外資企業の進出を促進するために、中国当局は企業所得税についてさまざまな優遇措置を取ってきました。一見メリットがあるように見える制度ですが、現地のローカル企業でまともに企業所得税を納めている会社などありません。
このことは中国当局は百も承知。そこで税金を確実に徴収するために考えられたのが、悪名高い「増値税」制度です。これは17%の付加価値税なのですが、企業は管轄の税務署から専用のパソコンを購入させられ、専用の伝票を購入し、売上が発生する度にこの専用の伝票を用いて顧客に請求しなければなりません。
そして、毎月自社が発行した増値税伝票(売上増値税)と仕入れの際に受け取った増値税伝票(仕入れ増値税)を税務署に提出して、差額(利益)の増値税を収めます。これで税務署は税金の取りっぱぐれがなくなる訳です(もちろん、偽の伝票を使った詐欺事件なども多々ありましたが)。
一方企業側は、法人所得税は現地の会計士を使えばどうにでもなるので、経理担当者の仕事はもっぱら資金繰りです。日本のように毎月決められた期日に払うのが当たり前の商習慣とは違い、催促しなければ払らってもらえない中国では、支払を如何に遅らせることができるか、如何に踏み倒すことができるかで経理マンは評価されます。ちなみに営業マンは売上だけではなく、顧客の購買担当者と如何にコネを作り、如何に早く払ってもらうかで評価されます。
このように中国の“B to B”の商取引においては、ごくごく一部のブランドメーカーを除いて全ての企業がこの不毛なビジネスを延々と繰り広げています。そして、ご存知の通りブランドメーカーは模造品や外資叩きの標的にされるのです。中国の工場が海外取引をしたがるのは、貿易ではお金が先にもらえ、最悪の場合でも50%は回収可能なためです。
つまり、中国国内では現金商売しか成り立たないのです。
このこと(特に増値税の実務)を、中国ビジネスのコンサルタントは絶対に説明しません。
さて、では日経ビジネスがいうところの“ニューリッチ”2億人の中国市場、消費者とはいったい誰なのでしょうか。彼らは外資企業で働くホワイトカラーなのか、それとも政府高官の親族縁者か、ダーティービジネスで私服を肥やす企業経営者か、カラオケ屋のお姉ちゃんか…。株と不動産しか上昇しない超デフレの中国市場。
外資の製造業が去った後、“ニューリッチ”2億人は生き残れるのでしょうか。
◆関連エントリ:NECも中国撤退、兵どもが夢のあと
※このところ、更新が滞ってしまいました。毎日訪問してくださっている皆様には申し訳ありません。この場をかりてお詫び申し上げます。



by イダベル
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